ダイバーシティ(多様性)という言葉は、今では、かなり普通に、日本でも使われるようになったなあ、と思います。正直いうと、外資系企業で英語を使い始めた最初の頃、20年くらい前は、外資でバリバリ働いている友人たちが、オンラインのコミュニティなどで、「ダイバーシティ」っていっていても、私は、なんのことだか、ぴんとこなかった、というのが正直なところです。でも、なんか、格好悪くて、「ぴんとこない」ってことも正直にいえなかった、30代の見栄っ張りな私がいたなあ、なんてことを、ほろ苦い感じとともに、思い出したりしています。
さて、本題。多様性ってなんだろうなぁって私が思うとき。普通に、「多様じゃなければ、世界は成り立たないよねー」って思うのです。この世界に、自分と全く同じコピーしかいなかったら、と思うとぞっとしますよね…単純にいえばそういうこと。単純すぎるかもしれないけど、そういうこと。それぞれ違う多様な個がいて、それぞれ得意なことが違うから、それぞれが、それぞれの得意なことを出し合って、助け合って、だから、世界は回っている。
こんな当たり前のことが、私には、なかなかわからなかった時期があります。それは、東京にオフィスのある外資系企業で、「その企業の中でより責任範囲の大きな仕事をすること」をめざして、肩に力を入れて頑張っていたとき。今考えると、お恥ずかしい話ですが、「その企業の中=ほぼ世界の全部」みたいになっていたなあ、って。早朝から深夜までオフィスで働いて。下手すると土日も出社したり、家でPCからメール打っていたり。ストレス発散は会社の人と飲みにいく。そして疲れれば、家で、寝ている。なんて生活。(ああ、不健康だ)そうすると、その企業の中での序列とかが、とても気になってしまって。だから上にいこうとしていたのかなあとも思うわけです。
そんな狭い視野がぱっと開けたのは、やっぱり2011年の東日本大震災なんですよね。あの津波の映像みて。自分が安心して信じていた世界が足許からぐらぐらするような感じがして。そして、だいいち、自分が携わっているスーパーマーケットに商品を供給するっていう仕事も、当たり前にあると思っていた、パンや牛乳や納豆なんかも品切れで仕入れられなくなって。当たり前のことなんだけど、自分は、一寸先にはどうなるかわからない、不確実な世界で生きているんだよなってことを体感しました。
そして、その後、2015年頃から通い始めた、被災地である岩手県陸前高田市。当時はまだ、殆どの人が仮設住宅に住んでいて。津波の爪痕も生々しい場所だったわけですが、そこで、生きていらっしゃる人達が。とっても素敵で、イキイキしていて。でも、東京のオフィス界隈で会う方々とはまったく違う感じの方々なのですよね。その方々と交流することを通して、私は、当たり前だけれども、農業や林業や漁業や介護をされている方々がいて、はじめて世の中が成り立っているんだということを体感していくようになりました。
東京の恰好いいオフィスでいくら稼いでいようとも、オカネを食べることはできないのです。誰かが、農業や漁業や畜産業や林業や製造業や飲食業を営んでいてくださるからこそ、私達は、生きるために必須である「食べる」ということができているんだよなあ。あまりに当たり前だけど、でも、都会にいると、そんな当たり前のことが皮膚感覚から抜け落ちていくこわさがあるなあ、とも思っています。
別にオフィスで働くことが悪いことではないけれど。オフィスで働く人は、たまたまオフィスで働くことが得意なだけかもしれない。同じように、農業をするのが得意な人、魚を釣るのが得意な人、料理をするのが得意な人、介護をするのが得意な人。そんな人達が、いるから、世の中が成り立っている。自分が不得意なことをできる人、自分と違うタイプの人に感謝しあって、支えあって、生きたいなあ、と思ったりするわけです。
そんなことを考えるようになったのは、私にとっては、東日本大震災が最初のきっかけ。そして、今回のコロナ禍が2回目の大きなきっかけです。
コロナをきっかけに、今起きていることは、実は、こんなことに気づいてきた人が多くなってきたからだ、という面もあるのかなあ、なんて考えています。
いろんな人がいる、の中に性別・性的嗜好という区分けや人種という区分けや、身体的・精神的な状態という区分けなんかもあると思うけど。多様性の根本は、みんな違う。みんな違っていい。違うから世界がまわっている、ということかなあ、と思います。
そして、たとえば、その違いとお金の稼ぎやすさみたいなことが結びついている面があるのが現実だと思うのだけど。みんながまったく同じお金を手にするというのも現実的ではないとも思うけれど。その格差、みたいなものが行き過ぎない世の中にしていくために、自分は何ができるだろうか、というようなことも考え始めていたりします。
<文責:株式会社まんま 代表 中村真紀>